父親の権威は時代によってかなり変化します。昭和の子育てと令和の子育ては、当然のことながら違います。
親が子どもを受容することは子育ての基本ですが、なかなか難しいのが現実です。親も理想的な中で育ててもらっていないため、不全感を心の中に閉じ込めたまま親業をしているからです。
父性は大切です。ときに基準を示し、導く強さも求められます。父性が機能していることは、母子関係を機能させるための前提になると言われています。
キリスト教では昭和の時代の雰囲気はそのままに、カミの父性的な面が強調されてきました。聖いカミのイメージです。このような宗教的権威は父親の権威と混同され、家庭で権威的な不適切養育が行われたことは否めません。思春期になると教会を出る子どもが多いこととも関係しています。家庭が受容的な面を取り入れるようになって来ているのは好ましい現象です。
さて、親子の問題といえば、主に父と息子の関係だと考えてきました。権威的な父親が子どもを苦しめる現実に向き合ってきました。
ところが、臨床をしながら親子の問題の実態はかなり違うのではないかと思うようになりました。圧倒的に多いのが、
母親の存在、母と娘の関係
なのです。
父親に苦しんだケースがなくなったということではありません。あったとしても、持ち込まれないのではないかと推測しています。なぜなのか、可能性を考えました。
1 男親とぶつかるのは息子なので、男性は苦しんでも相談しないことが多い
2 男親の場合、身体的、性的虐待など事態は深刻になり、相談の俎上に載らない
3 女親の場合、身体的攻撃より、ことばなどを使った心理的な攻撃が多い
こういった背景があるのではないかと考えています。
親子問題の風景が大きく変わりました。そう言われてみると、カウンセリング系の書籍には、母親で苦しんでいることをテーマにしたものがかなりあることに気づきました。キリスト教会も、この現実に気づいていませんでした。
毒親の真実
アエラが「母との距離感」というシリーズの記事を掲載しました。記事のために行ったアンケートの結果は、大変興味深いものでした。「母親が好きですか」という問いに対して、「大好き」が28パーセント、「好き」が26パーセント、「嫌い」が16パーセント、「大嫌い」が12パーセントでした。回答者は男女349人でした(2025年10月27日号)。
続いて、毒親についてのアンケートを実施、「あなたの親は毒親だと感じますか」との問いに対して、「はい」が47パーセント、「たまに感じる」が18パーセントでした。回答者は、10代~70代の男女508人でした。
さらに、「自分が毒親だと感じることはあるか」についてアンケートを実施、「感じることがある」が12パーセント、「たまに感じる」が29パーセントでした。回答者は、子どものいる383人の方々でした。(2025年11月10日号)。
母親がそれまでの自分の人生に満足できていないとき、娘には自分のような経験をさせたくないと考えるのは自然です。その一方で、自分が嫉妬するほどには成功してほしくないと感じることもあるといいます(2025年10月6日号)。
そのシリーズの中で、精神科医の岡田尊司氏の示唆が引用されていました。大切なことは二つあるということでした。
第一に、母親は愛情深いことだけでなく、子どもの主体性を尊重できることが大切。愛情が深いと自分の献身に溺れて、押しつけになりやすい。第二に、距離感に上手く折り合いが付いていることが大切だということです。
さらに、母親が娘を愛せない場合、娘が母親に共感してもらうことを諦めれば、生きることは苦にならないけれども、それはセカンドベストだといいます。母側の課題の部分が大きいのです。母親が自分の気持ちと子どもの気持ちを分け、娘と共感的な関係を持てるかどうか。それは「能力」だとしています(2025年10月13日号)。
示唆に富む指摘でした。
続く


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